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日本学術会議審議回答の紹介 「研究力強化-特に大学等における研究環境改善の視点から-」

カテゴリー: 日本学術会議

作成日: 2023-03-06

 研究力強化に関する審議依頼への日本学術会議の回答が昨年2022年12月23日に公開されました。1.研究力向上のための研究環境改善、2.若手研究者が活躍するための研究環境整備、3.博士課程進学者の増加とキャリアパス実現、の3つの視点からの審議依頼に対して10の提案がされています。要約内容を抜粋編集して紹介します。詳細は下記サイトでご確認ください。

URL: https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/division-8.html

 

審議依頼

依頼日:令和4年3月23日

依頼元:内閣府大臣官房総合政策推進室、 内閣府科学技術・イノベーション推進事務局

依頼内容:

  1. 研究力向上に資する研究環境改善のための総合的な政策の在り方とそのためにアカデミアを始めとする関係者が行うべき具体的方策の検討(特に研究時間確保など生産性向上のための具体策、国際的な人材流動性や国際化の推進など)
  2. 優れた若手研究者が活躍するための研究環境整備の在り方とそのための具体的方策(若手研究者のスタートアップ支援や国際的研究ネットワーク構築 支援、環境整備のための支援の方策など)
  3. 博士課程進学者増加及び学位取得後の多様で豊かなキャリアパス実現のための取組の在り方と具体的方策(海外の高学歴化や多様なキャリアロールモデルに対応した取組、学位を目指すモチベーションを高めるための取組、学位取得者の多様な雇用形態の実現など

日本学術会議の回答(抜粋・要約しています)

回答日:令和4年8月5日

 日本学術会議は、研究力強化に関し、ワーキンググループを設けて議論を行った。研究力を構成する要素の充実によって「研究力」の向上を図るという観点から審議。若手研究者を取り巻く環境や直面する今日的な問題を重視した。

(1)「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」に基づく取組の現状や進捗に ついて
 アカデミアは強い危機感を抱いている。個々のプログラムの局所的最適化だけでなく、大学・研究機関全体について最適化が図られるように、プログラムのマネージメントが望まれる。

(2) 研究力向上に資する研究環境改善のための総合的な政策
① 限られた時間リソースの適切な配分
【提案1】教育業務の最適化
 COVID-19の流行で実現したリモート講義などの新しい形式の講義の活用が考えられる。時間的・空間的制約にとらわれない利点があり、時間の最適化と質の向上の両立が可能。アカデミアは教育効果の精査を進めるととも に、 政府は必要となる設備や制度の速やかな整備を実現すべきである。
【提案2】より良い学生支援のための学生・教員サポートシステムの創設
 大学教員が心身に不安を抱えた学生への対応やハラスメント防止に従事することで研究時間の不足や精神的負荷の問題があるとの指摘がある。大学・ 研究機関は専門スタッフの配置と外部機関の連携支援を促進して専門職によるサポートを実現するとともに、 政府はそのような取組を強力に後押しする施策を実施すべきである。

② 研究環境
【提案3】事務・技術サポート強化と研究機器環境(コアファシリティ)整備

 研究者が研究に専念するためには、必須な経理事務や教育、サポートシステムの整備が必要。最先端機器を含めた研究機器やデータ基盤の整備や更新の遅れが、学術領域の研究力低下の大きな原因。限られた資源を有効活用し、機器の共用化を推進する必要がある。

③ 研究資金
【提案4】科学研究費助成事業(科研費)の全種目基金化による研究力向上

 科研費は研究者の自由な発想による研究を推進する基盤的研究費と言える存在であり、長い歴史を通じた漸次的な制度改革によって、複数名の匿名専門家 のピアレビューによる公正な競争性を実現している。政府及び日本学術振興会は、全ての種目の科研費を基金化し、年度を超えた柔軟な予算執行を可能とするとともに、年度ごとに大幅に採択率が変動する種目間での基金の融通による機動的・弾力的運用など、研究力向上に資する柔軟で切れ目のない効果的な支援を実現すべきである。
【提案5】過剰評価と評価疲れの解消
 説明責任の時代にあって、大小様々な事業に評価視点が導入されたことで、 研究者がこの対応に追われる「評価疲れ」が叫ばれて久しい。資金配分機関及び評価機関は、適切な質・量の評価を求め、 また評価のフィードバックとその反映の仕組みや方法を不断に見直すことが望まれる。

(3) 優れた若手研究者が活躍するための研究環境整備
【提案6】若手研究者のスタートアップ支援の充実

 研究者が新たな環境で研究活動を(再)スタートする上では、着任直後の支援が最も重要である。その支援は優れた研究者に集中すべきではなく、全ての 対象者に機会が与えられ、貴重な芽が失われないような制度が目指すべき姿である。政府は科研費の研究活動スタート支援などの制度を拡充し、できるだけ多くの研究者が着任後速やかにスタートアップ経費受給の機会を得られるよう に制度を見直すとともに、各大学・研究機関はその裁量により適切な支援の上積みを行うことが望まれる。
【提案7】若手研究者の国際的人材流動性・国際ネットワーク構築
 国際的人材流動性・国際ネットワーク構築は、研究者に適度な時間・資金・環境が整っていれば進む。そのための条件が満たされていないことが現在の停滞の主な理由。既存支援事業でも支給額が渡航希望先の最低賃金を下回ることによる障害も。

(4) 博士課程進学者増加及び学位取得後の多様で豊かなキャリアパス創成
【提案8】博士課程学生の位置付けの明確化

 博士課程の学生は、自立して研究を進める研究者でもあるという「身分の二面性」を有する。我が国における博士課程学生の社会的な位置付けの見直し・明確化の検討が喫緊の課題である。一方、政府による総合パッケージの直接的な博士課程学生支援による進学者増加の政策を更に有効とするには、多様で豊かなキャリアパスを形成するとともに、学術 (科学) を支える博士課程学生の重要性 が広く社会に浸透する必要がある。政府、アカデミア、産業界など関連セクタ ーは博士課程学生の役割と重要性について積極的に発信することが望まれる。
【提案9】高度な「人材流動性」社会実現のための多様な博士課程進学者とキャリアパス
 未来社会においては、産官学のセクター間を往来する螺旋的キャリアパスを構築することが期待されている。しかしながら、現状は博士人材に関する情報の可視化が十分とは言えない。博士課程進学を検討する者にとって不安材料となっている。
【提案10】学術研究に対する社会的理解の醸成に向けたステートメント発出
 以上に掲げた施策群を効果的に機能させるためには、学術研究に対する国民の支持が不可欠である。政府及び産業界には、学術研究を奨励する前向きな支援のメッセージ発出が望まれる。これに対し科学者コミュニティも、自身の学術活動が国民の信託に支えられていることを自覚して、支援に対する説明責任を果たすべきである。

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